やねうらたんけん
屋根もふき直したのではないかな。
いいですか、ネズミが騒いでた時があったので
ネズミホイホイを仕掛けて、片付けた記憶がありません。
ミイラになっているかも。
それに、前の工事の時の大工さんをあれから見かけません。
ひょっとしたら閉じ込められてるかも。
「はいはい、わかりました」と軽くイナされました。
建築家は豪胆ですな。
3人とも軽業師のようにするすると屋根裏の
闇の中に消えていきます。
「おや、こんなトコに珍しい木の滑車があります」
「ここ、何かに使われていたようですね」
「ご存じじゃないですか?」
どうでも、トドも上がらなくてはならぬようです。
丈夫な栗の横木から下がっているのが 滑車。
確か、冬の間「こんにゃく芋」が凍みないように
ここで保存していたと聞いたような気がします。
春になったら取り出して、もう一度植えて、
二年越しで大きく育てるとか。
この土壁の向こうが仕事部屋でしたね。
広いな。もう一部屋できる。
いや、仕事部屋の向こう側にも同じくらいの
空間があるはずです。
・・・そうだ。
結婚当時、そっちに部屋を広げて二階を新居にって
アイデアを親父が考えついて、地元の大工さんに
相談しようかって言ってた。
夏はむちゃ暑いし、窓もない閉鎖空間に閉じ込められる
なんてイヤだと即座に断ったけど。
「この大量の梁を、全部出せば
ものすごい迫力になりますよ」
いいけど、とても掃除できないです。
「確かに・・・」
「北側に床がありますが、あれは?」
前の工事の時に
「いつか壁をぶち抜いて書庫を作りたい」と
言って張ってもらいました。床だけ。
「どんだけ、本を置いても平気なくらい
丈夫に作っといたから」と大工さんが言ってました。
最近見ないけど、大工さんありがと。
一燈だけで照らすと舞台に見えますね。
紅テントの舞台だ。
スポットの中に唐十郎が立ち。
李麗仙や不破万作が闇に潜み、
若き根津甚八や小林薫が「今か、今か」と
出番を待っている。
懐かしくも怪しい「下谷万年町物語」の風が吹き、
エンディングでこの土壁がどぉんと崩れると、
そこは下北沢の草原が現れ、去り行く軽トラの上には
「ハローハロー」と歌う
「おちょこの傘持つメリーポピンズ」が
立っているのだ。
ワタシは女優よと
異空間にトリップした研修生19才。
大量の本の重みを今も待ち受ける分厚い床。
削りたての柱は薄紙に包まれ、ただ闇の中で
15年を過ごした。
白昼夢のような屋根裏探検でした。
三人の建築家は「十五年の暗闇」を意識から逸らし
現実の数値を図面に書き込む。
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