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くぉらぁ~

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2010年1月31日(日)くもり、霧雨
プールサイド小景(5) 「くぉらぁ~」
トドは18で上京し、新宿近くの浪人生専門の下宿屋に住んだ。
三畳間が一つだけのまかない付きで、28の部屋に浪人生が28人。
引っ越した時は気にもしていなかったが、灼熱の夏になると田舎から
出てきた下宿人の誰もがそれぞれの出身地の川や海を恋しがった。
Poolwat

狭い部屋には扇風機すらなく、足を窓の外に出し寝っ転んで微かな風を
待つか、ウチワで顔をあおぎながら風の冷却力とそれを起こすため筋肉
が発生する熱量の差し引きをぼんやりとした頭で考えている。

焼けたアスファルトの熱気が深夜になってもおさまらないある熱帯夜、
となりの部屋のニシ君が開け放していたドアの外、通路に立って叫んだ。
「おぉい、みんなぁ、泳ぎに行こやないけ」
「こんな時間に泳げる場所なんかないんちゃうかぁ」
「いんや、ある、ワシがええトコ知っとるで、そこ行こ」
「ボク、海パンなんか持っとらんけど」
「要らんてそんなもん、タオルだけありゃええ」
「要らん言うて、そんでもな」「あぁ、風呂屋なんか」
「ちゃうて、ええから行こ、行こ」
そんなワケで6、7人の若者がサンダルをつっかけて、夜道をタラタラ
と歩き始めた。
「なぁ、ワシ海パンを・・」
「要らんて言うとるやろ、暗いからわかりゃせんわい」
「ほぇぇ、そこ暗いんかぁ?」
しばらく歩いて着いたんは某中学校だった。
校庭は暗く、手前には真っ黒い水面のプールが見える。
水面を渡って来るかすかな風はカルキの匂いがするが、いかにも涼し
そうでもある。
P1
「さぁ、泳ごやないけ」の声に全員わらわらとフェンスに手を掛けて
苦もなく乗り越えた。
プールサイドでスルスルとGパンとTシャツを脱ぎ捨てパンツをその上に
置いた。生真面目に準備運動をするタナカ君を尻目に、皆そろりと
漆黒の水の中に足を入れる。
熱く火照った体を暗い水が涼やかに包み込む。
「あぁ、生きかえるなぁ」
最初は平泳ぎで静かに泳いでいたが、「見ちょれ、これが古式泳法じゃ」
「じゃ、ワシはドルフィンクロールを」「シンクロちょっと出来るんよ」
「水球はこげん泳ぐと」
次第に楽しくなってきて騒がしくなった。
全員田舎モンじゃから声も大きい。
「ほんじゃ、こんどはジャンプを見せちゃるでな」の声につられ、次々に
飛び込み始め闇の中に白いしぶきがいくつか上がったところで
「くぉらぁ~」「誰だぁ、ケーサツ呼ぶぞぉ」と二人の警備員の大声が
鳴り響き、二つの大型懐中電灯がプールの闇を切り裂き全裸の若者たちを
とらえた。
照らされたこっちは恥ずかしいけど、警備員の方も見たくもないようで、
裸を照らし出しては「あぁ、イカン」とばかりに光をそむける。
「あぁ、もうお前らは・・早くプールから出なさい」
「こらこらハダカのままはまずい」「服を着ろ、服を」
「出口は向こう、右の方だから」「あぁ、誰かサンダル片方忘れとるぞ」

親切だった警備員さんその後お元気でお暮らしでしょうか。
皆、とりあえず社会人となっております。・・たぶん。

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